素直にありがとうが言えなくて・・・
「お父さんが入院したの。今年は戻ってこれない?」
久しぶりの母との電話は、そんな言葉から始まった。
大学入学と同時に家を出てから、
新しい生活が楽しくて、何かと理由をつけては
ずっと家に帰らなかった。
3年越しに会った父と母は、
ずいぶん小さくなってしまったように見えた。
「あなたったら、連絡すらろくにくれないんだもの。
いい機会だからこれも渡しておくから」
病院からの帰りの車内で渡されたのは、
「きちんとファイル」と書かれたオレンジ色のファイルだった。
開くと保障の一覧があった。
父と母と、私のも、こんなに・・・。
「たまには電話くらいしなさい。お父さん、心配してるわよ」
母は運転しながら続ける。
素直にありがとうが言えなくて、
「早く良くなるといいね」
と返すのが精一杯だった。