動かない右手を 泣き笑いしながら握り締めている嫁がいる
頭が痛い・・・目の前がまっくらだ・・・
病院にかつぎこまれた自分を、
なぜか遠くから見ているような錯覚にとらわれる。
「あれ・・・何か大事なこと言うてないような・・・
あかん、何やったっけ?」
「あ・・・オレンジの・・・」
目を開けると、嫁と娘と息子、オヤジ、かあちゃん、
ねえちゃんの顔がある。
「なんでみんなおるんや?」
右手を上げようとしたが動かない。
「なに言うてんのや、まこと!
あんた家の前で急に倒れて、救急車でかつぎこまれたんやで!」
走馬灯のように、なんてのは嘘だ。
見たのは今ここにいる顔だけやぞ。
なぜかそこにオレンジのファイルがある。
「なんであるんや?」
「あんた、うわごとしゃべってたんやで。
ファイルが・・・オレンジの・・・って」
私には夢がある。
娘がマネージャーをするサッカー部が、
全国選手権に出ること。
娘とバージンロードに立つこと。
野球をする息子が、甲子園のベンチ入りすること。
まだ見ぬ息子の嫁に会うこと。
嫁が・・・
まだ言わんとくね。
きちんとこのファイルの中に書いてある。
保険に入ったあの日に嫁が席をはずしたすきに、
あの人たちにお願いして、
きちんとファイルの裏に夢を書いた紙を
入れてもらっといたんや。
でも読んでしまったかな。
かっこ悪いやんけ。
動かない右手を、泣き笑いしながら握り締めている嫁がいる。
おおきに。