父を想いながら 久しぶりに息子に戻った時間だった
「お父さんが入院した。すぐに帰ってきて!」
出張に出ている私の携帯に母から一通のメールが届いていた。
よく見ると何件もの着信履歴。
「どういうこと!?」
あわてて電話をした。
「すぐ入院しなければ、
明日の朝体が冷たくなってもおかしくないって言われたの」
気丈に平静を装う母の声が、私を一層不安にさせた。
「とにかく急いで戻るから」
仲間に仕事を託し、私は急いで両親の元へ駆けつけた。
病院へついた頃には日付が変わっていた。
ドアを開けて病院に入って最初に目に飛び込んできたのは、
私を確認して申し訳なさそうにベッドに腰掛けた父の姿だった。
「具合は・・・?」
私が聞くと、
「ひとまずは心配ないってことだ」
少し照れくさそうに父は言った。
「良かった・・・」
私はひとり安心した。
母も小さくうなずいていた。
「いい歳なんだから、ムリするなよ」
そう言ったのは、大阪からひと足先に駆けつけていた兄だった。
「今夜は一晩、病室で母さんの顔見ながら反省だな」
そう言うと、私と兄は病室を後にした。
よく見ると、兄の手にも父から渡されたきちんとファイル。
「兄貴も持ってきてたんだな」
「当然だろ。長男だぞ」
私が
「明日、これ見ながらいろいろ確認するよ」
と言うと、
「ああ、頼むな」
兄は一言言うと、
「今日は家に戻って一杯やるか」
父を想いながら、久しぶりに息子に戻った時間だった。