一度も会うことはなかったが 父はやはり私の父だった

一度も会うことはなかったが 父はやはり私の父だった

一度も会うことはなかったが 父はやはり私の父だった

「圭ちゃん、ちょっと」

子ども部屋の奥の和室から、
同居している70歳の母が小声で私に手招きをした。

「なに?」

私が近づくと、母は何とも言えない顔で私にささやいた。

「あのね・・・。あなたのお父さん、先週死んだんやって」
何とも言いがたい顔で母は告げた。

両親は私が3歳のときに離婚した。
それ以来、父とは1度も会っていない。
結局今の今まで、父は一度も再婚せず、独りで寂しく逝ってしまったらしい。

「・・・あ、そうなんや」

少し驚きはしたが、涙が出ることはなかった。
当然だ。なんせ一度も会ったことがないのだから。

顔を思い出せるのは、3歳のときに遊園地に連れて行ってもらったときの
写真が一枚、残っているから。

私も今年40歳。
大人の事情も今はよくわかる。
父を恨んでもいないが、寂しくなかったといえば嘘になる。

「結局、一度も会えずしまいやな」

小さくつぶやいた私に、母が一冊のファイルを手渡した。
表には"きちんとファイル"の文字。

「何これ?」
怪げんな顔で私はそれを開いた。

そこには・・・。
父親が生前に加入していた保険と、その受取欄には私の名前。
続柄には"子"の文字。

「何かあったらあんたに渡してって言われてたから」
母が言う。

それを見た瞬間、不思議と涙があふれてきた。
一度も会うことはなかったが、父はやはり私の父だった。

「なんやねん。こんなもんいらんから、一度くらい会いに来いよって」

母の手前、私は照れ隠しでそう言い放ったが、
父の気持ちが痛いほどしみた。

今は私も2人の父親だ。私にも残したい想いはある。

「このファイルいいな。次の休みに、ここ行ってみるか」

次の休日の家族のスケジュールを確認するため、
台所の妻のところへ向かった。




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