せっかく助かった命 妹の幸せは私が支えるんだ
「どっちがお姉ちゃんかわからないね」
と子どもの頃はよく言われた。
そんなしっかり者の妹が、
交通事故にあい意識不明になった。
病院の先生には
「もうこのままかもしれない」
「目が覚めても後遺症が出るかもしれない」
と言われた。
看護師さんからは
「家族の声が一番届くから」
と言われ、家族みんなで妹の名前を呼び続けた。
一生懸命、呼び続けた。
・・・あれから1年。
「お姉ちゃん、私、結婚したい人がいるの。」
妹がそう言いはじめたころから、
後遺症が妹を苦しめだした。
仕事や恋が普通にできなくなった。
「いつもあなたの味方だから」
と、ずっと励まし続けた。
でも妹が
「もう死にたい」
そう言い出したとき、とても腹が立った。
みんなで必死に願い、一度はあきらめかけた命。
生きたいと頑張って復活した命なのに。
妹が退院してからも、
必ず妹が元気でいられるようにお祈りしてたのに。
ふと棚に立てかけてある、オレンジ色のファイルが目に入った。
ファイルは強く握った跡で、ひどくシワが付いてしまっている。
妹が事故にあったとき、
「どうして妹が・・・」
と理不尽な災難に、怒りのあまり握り締めた。
・・・あのときの跡だ。
そのあとも、そして今も。
そのファイルは静かに妹の闘いを支えてくれているのだ。
(私が腹を立ててどうするんだ・・・)
せっかく助かった命。
妹の幸せは、私が支えるんだ。
・・・このファイルと一緒に。
「コン、コン」
私は妹の部屋をノックした。