いいかげんだと思っていた親父の背中
何年ぶりの帰省だろう。
「はい、これ」
と母が渡してくれたのは、オレンジ色のファイル。
どうやら私が小さいころから、父が作っていたものらしい。
「父さんには内緒よ。親子なんだから直接渡したらいいのにね。」
直接渡さないのが、まったく父らしい。
私の家は裕福ではなかった。
オモチャをねだるたびに
「うちにはそんなお金はない!」
よく怒鳴られたっけなぁ。
(こんなお金、どこにあったんだよ・・・)
いつの日か追い抜いていた、頑固でわがままで、
いいかげんだと思っていた親父の背中。
今日だけは自分より大きく見えた。
(俺も負けてられないよな・・・)
・・・数週間後。
「パパ、これなに?」
「これはね、大きくなったらお前にもわかるよ。」
いま私の手には、
守ってくれるファイルと、守るためのファイル。
2冊のファイルがある。