・・・お母さん ありがとう
あれは8月の暑い日のことだったと思う。
当時付き合っていた彼が
「一度お母さんに会いに行こうよ」
と言ったので、実家の母に会いに行った。
はじめて会った2人は、はずかしそうに挨拶をかわし、
母の口元が「よろしくお願いします」と動いているのをみた時、
私もなんだか照れくさくなった。
それから1年が過ぎ、彼との結婚が決まった。
ちょうどその頃に母から急な電話があった。
「こんなときに悪いんだけど、一緒に病院に来てくれない?」
私はなんだかいやな予感がし、彼にも一緒に来てもらった。
医師に診断された病名は、肺がん。
それも一ヶ月ももたない程、病状が進んでいるとのことだった。
私はその場で泣きじゃくり、
でも母は「自分の体調は自分が一番よく分かってる」とでもいうような表情で、
「あなたはもしものときの心の準備をしておきなさい。
それと棚のすみにあるファイルを見ておいて。」
家に帰り、言われたファイルの中を見てみると、
母が加入している保険の一覧だった。
保障内容と、受取人には私の名前。
「お母さん、こんなことまでしてくれてたんだ。」
また涙がこみ上げてきた。
今日もあの頃と同じ8月の暑い日。
半年前に産まれた子どもと主人と3人で、お母さんのお墓参り。
お母さん、ありがとう。