父さんのおかげで もう一歩父親らしくなれたような気がした
ある日、父が倒れた。
病院のベッドに横たわる、弱りきった父。
「実は結婚したい人がいる。」
私がそう告げると、父は何も言わず、やさしくほほえみ、
そして、翌朝亡くなった。
・・・時は流れ、今では私も3人の子どもの父親になった。
じゃれ合う子供たちを横目に、
母がおもむろにオレンジ色のファイルを取り出してきた。
中を開くと、父が加入していた保険の一覧。
私の幼いころから、節目節目に書き換えられている。
父からの保険金は受け取ったが、
こういう一覧はまだ見たことが無かった。
「どうして今になって?」
私は母に問いかけた。
「あなたが父親として、
あの人の気持ちが分かるようになったら、話そうと思ってたの。」
母はこう続けた。
「お父さんはね。
あなたが自分が高齢になってからの子どもだから、
一緒にいてやれる時間が短い。
せめてこれくらいのことはしてやらないとって、
色々準備してくれてたのよ。」
母の言うように、私も父になったから、その気持ちが痛いほど身に染みた。
父さんが私にそうしてくれたように、
子どもたちを大切に見守っていくよ。
父さんみたいな父親になれるように頑張るよ。
父さんのおかげで、もう一歩父親らしくなれたような気がした。