私は父に愛されていたのだろうか?
社会人になって、1人で上京して数年が経った。
色々な人との出会いのなかで、
自分を振り返って、疑問に思うことがある。
「私は父に愛されていたのだろうか?」
思い出すのは、私や父と話すときの面倒そうな顔ばかり。
私たちへ愛情を持ってくれているのだろうか?
そんなある日、父が入院したと知らせが入った。
驚いて地元へ戻ると、病室には眠る父の姿。
最後に会ったときよりも、痩せて顔色の悪い姿。
悲しさや戸惑い、さまざまな感情に動揺する私に、
母が声をかけた。
「これ、タンスの中にあったのよ。」
父には似合わない、きれいな表紙の「きちんとファイル」。
中を見て「保険に入っていたんだ」と驚いた。
受取人の欄を見たとき、心臓が止まりそうだった。
私の名前・・・。
父の中に私はいたのか、とハっとして、
救われた気がした。
愛情が無かったのではない。
伝え方を知らなかったのだ。
父が目を覚ましたら、私の方から少しずつ、
笑顔で声をかけてみようと思った。