介護施設にいる 父から届いていたもの
大黒柱であり、恐かった父が脳卒中で倒れた。
これからどうしよう・・・。
母親もうろたえているように見えた。
小学生だった僕は、何が起こったのかあまり理解できなかった。
母親が働いていたこともあり、生活環境が大きく変わった感じはしなかった。
別人のようになった父が、介護施設にいることを除いて。
しかし僕が成長するにつれて出費も増えていっただろうに、
なぜ普通に生活できているんだろう?と不思議に思った。
反抗期で照れくさかったこともあり、直接母親に聞くことはできなかった。
やがて僕も社会人になり、
母親が保険は大事だから入りなさいと時々言うようになった。
父親の事もあり、気にはなっていたが自分にはまだいらないと思っていた。
それから数年後。
僕は結婚することになった。
母親に彼女を紹介した夜、昔話に花が咲いた。
今までの感謝とともに、ふとあの疑問をぶつけてみた。
「お父さんが倒れて収入も減ったのに、大学まで出してくれてありがとう。
でもお母さんの収入だけで大丈夫だったの?」
すると黙って母親は立ち上がり、
自分の部屋からオレンジ色のファイルを持ってきた。
「お父さんが私たち家族を助けてくれたのよ。」
と言いながら、僕に手渡した。
父が僕と母のために備えておいてくれた保険。
表には「きちんとファイル」と書いてあった。
父さんが長い間、僕たちを支えてくれていたのだ・・・。
父の想いに涙があふれた・・・。
僕も、父さんみたいに家族を守れる父親になりたい。
そう決意できた結婚前夜だった。