・・・私は母に なんて残酷なことをしてしまったのだろう
母は女手一つで私を育ててくれた。
とても大変だったと思っている。
夜遅くまで働いていたのも知っていた。
でも家が貧しいことに不満を感じて、よくケンカもしていた。
20歳になったとき、そんな私は母に黙って家を出た。
特に困ることもないし、帰る必要はない。
私は大人になったんだから。
そう思っていた。
数年して、病院から電話があった。
母が倒れた、と。
久しぶりに会った母は、だいぶやせていた。
今までの心労がたたったのだと気付かされた。
・・・私は母に、なんて残酷なことをしてしまったのだろう。
口をつぐむ私に、母は一冊のファイルを手渡した。
「また迷惑かけちゃったね。でも、これだけは持っていなさい。」
そのきちんとファイルと書かれたファイルの中には、
私の名前が書いてあった。
私はたまらず、わんわんと泣いた。
こんなに大切に思ってくれていたのだ。
母の病気と、きちんとファイルをきっかけに、
親子がやっと分かり合えた気がした。