最後にまともに会話したのは いつだったかな
18歳で大学へ進学と同時に、
実家を離れてから早いもので30年近く経つ。
気付いてみれば、親兄弟と暮らしている時間よりも、
離れて暮らす時間の方が長くなっていた。
実家には、お盆と年末年始の年2回程度しか帰省せず、
滞在時間も半日くらい。
母からは、毎日私の体を気遣う言葉をもらっていたが、
適当な相槌を繰り返していた。
父とは、ここ何年もきちんとした会話もしていない。
そんな父から、ある日電話が入った。
「次はいつ帰ってくる予定だ?」
理由をたずねても生返事だった。
1ヵ月後、実家へ立ち寄る機会があった。
父は不在だった。
母が父から預かっていたオレンジ色のファイルを差し出してきた。
ファイルのタイトルは「きちんとファイル」と記されていた。
中は生命保険の内容のようだった。
「お父さん、去年から体の調子が悪くて、今度入院することになったの。」
母がつぶやいた。
四十過ぎた私に対しても、
いつまでも父としての想いを抱いてくれていた事に胸がつまった。
最後にまともに会話したのは、いつだったかな?
気づいたら、父の帰宅時間を確認している私がいた。