花火を見上げていた母の頬を 一筋の涙が流れた
就職して初めての夏休み、
いつものように母親の待つ田舎に帰省した。
毎年我が家の縁側で、
家族全員で夏祭りの打ち上げ花火を見るのが恒例なのだ。
たった3人の家族が1年に1度だけ、
お互い元気で頑張っている姿を思いやる。
花火大会のクライマックス。
いろとりどりの花火が夜空を彩り、
今日一番の大輪の枝垂小柳が周囲を黄金色に染めると、
儚さと寂しさが急にこみ上げてくる。
今年の夏も終わりか・・・。
「お母さん、綺麗な花火だったね。
今年もお母さんと一緒に見られて嬉しかった・・・。」
東京にあこがれ、今年大学生になった妹が
母の腕をとって甘えている。
夜空を見上げていた母の頬を、
一筋の涙が流れた。
毎年皆でみているのに、初めて母の涙を見た気がする。
「母さん、やっぱり寂しい?」
「やあね、嬉しいからよ。あなたたちがこんなに立派になってくれて・・・。」
「僕が高校に進学した夏だったよね。父さんと見た最後の花火大会・・・」
あれから母は一人で、僕たち兄妹を大学まで出してくれた。
「お父さんがね。自分に何かあったとき、
お前たちが困らないようにって、保険に入っていてくれたの。
このファイル私にって、なんの説明もなく。
お父さんらしいでしょ?」
オレンジ色のファイルを愛おしそうに母が見つめていた。
月明かりに照らされた母の笑顔に、もう涙はなかった・・・。