埃まみれの父の部屋 父の想い・・・
父が病院へ担ぎ込まれたと連絡があった。
父は10年前に母と離婚し、田舎の山奥で暮らしていた。
母との離婚以来、私は父と話していなかった・・・。
父が出て行って以来、
久しぶりに父と会ったのは、私の結婚式のときだった。
あの時のバツの悪そうな、でも笑顔を絶やさない
父の顔が頭を離れない・・・。
私たちが病院にたどり着くと、
すでに父は息を引き取ったあとだった。
それから半年が経ち、
父の住んでいた家を整理する決心がついた。
山奥の家の庭は、草木が生い茂り、
セミがけたたましく鳴いている。
埃まみれの父の書斎に、オレンジ色のファイルを見つけた。
「きちんとファイル」
中には、ウエディングドレス姿の私の写真と、
5年前に父に送った、息子の幼稚園の入園式の写真。
それを広げたとたん、気持ちの整理がつかなくなり、
父の家を後にした。
息子は写真でしか祖父を知らない。
祖父の残した学資保険を使うころには、
息子とふたりで父の住んでいた家を整理しようと思う。
そのとき、写真でしか祖父を知らない息子は何を思うだろう・・・。