東京へ旅立つ息子へ 夢を壊さないために 渡したもの
今日は、社会人として大切な息子が東京に旅立つ日。
初めての一人暮らしで、ちゃんと一人で生活できるのか、
食事など自分で作ったこともないし、
病気にならないか?
色んな想いや、心配がある中、
普段と変わらない様子で身支度している息子に、
私は一冊のオレンジ色のファイルを渡した。
「きちんとファイル」と書いてある。
息子が「これ何?」と言った。
「これは、お父さん、お母さんたちの生命保険よ。」
息子が生まれてまもなく、私の父が倒れた。
男の子がほしいと願っていた父にとって、
待望の男の子だった。
ようやく親孝行ができたと思っていた矢先だった。
孫と楽しそうに遊ぶ姿を思い描いていたが、
現実は違うものになった。
子育ての合間を縫っては、父の介護をした。
元気なうちにと、何度も孫を見てもらいたくて、飛行機に乗った。
私は姉とふたりで、精神的にも疲れきっている母親を支えた。
だから今、もし私たちにも同じようなことが起こったら、
と思い出したのだ。
この子の夢を壊したくないと思った。
せめてもの親の想いだった。
靴紐を結びながら、振り返らずに息子は言った。
「・・・ありがとう。」