頭の中は微笑みかける父の顔しか浮かばなかった
大学生活も3ヶ月が経ち、待ちに待った夏休み。
仲の良い友人もでき、オレの夏休みは楽しみが満載。
大学生活が楽しくて仕方が無い。
しかも憧れの東京での生活だから尚のこと。
でも、母が「帰ってこい」と言うので、とりあえず帰省した。
夜行バスの中でも、頭の中は友人たちとの計画でいっぱいだ。
「おかえり」
母がうれしそうに出迎えてくれる。
土産話もそこそこに自分の部屋へ。
何のシゲキも無い3日を過ごし、やっと東京に戻れる。
「お父さんにお線香ぐらいあげといてよ」
言われるがままに線香をあげた後、何気なく
普段触ることのない仏壇の引き出しを開けた。
「何、これ?」
見たことの無いオレンジ色のファイル。
母は少しとぼけた顔で
「何だったっけ」と。
ファイルを開くと、それは生命保険の一覧だった。
その書類の隅に、走り書きがある。父の字だ。
理解するのにしばらくかかった。
「あいつを立派にしてやってくれ」
涙が止まらない。
(オレなにやってんの?)
東京の大学に行きたいと言ったら、
「そんなお金ない」
とずっと言われていたのに。
帰りの夜行バス。
頭の中は微笑みかける父の顔しか浮かばなかった