「今日は父さんの大好きな肉じゃがだからね」
また始まった。
最近ますます小言が多い父。
「大体お前は、いつになったら嫁に行くつもりなんだ」
母が亡くなってから、
きっと寂しい思いをしていると思って、
なるべく時間があれば
顔を出すようにしているのに。
人の気も知らないで・・・。
もう今日は言ってやる。
「何よ。父さん一人で寂しいと思って帰ってきてあげてんのに。
そんな文句ばっかり言うなら、もう来ないから」
怒って帰ろうとする私の背中に
「おい、これ持ってけ」と父の声。
振り向くとオレンジ色の冊子。
「きちんとファイル?何よこれ」
中を見て驚いた。
そこには、初めて目にする父の保険の一覧が。
受取人には私の名前。
「バッカじゃない!
今日は父さんの好きな肉じゃがだからね」
父に涙を見られないように、
私は台所に向かった。