「実はね ・・・私ガンになっちゃって そんなに長くないのよ」
結婚してから仕事も忙しく、
母が一人で暮らす実家には、
しばらく帰っていない。
ある冬の寒い日、
「遊びにこないか」
母からの電話だった。
自分から遊びに来いだなんて
言わない母なので、さすがに
「日曜日に帰るよ」
とこたえた。
週末、家族で実家に帰ると、
母と二人になる時間があった。
そっと渡されたのはオレンジ色のファイル。
なんだろうと中をのぞくと、
保険の一覧、そして受取人に私の名前が。
「実はね。・・・私ガンになっちゃって。
そんなに長くないのよ。」
その日は、父の命日だった。